はじめに：「AI警備員」が現実になる時代へ

アメリカでは、学校やショッピングモール、イベント会場での銃撃事件が年々深刻化しています。金属探知機や手荷物検査といった旧来型の対策では対応しきれない中、新しいセキュリティの形として注目されているのが「AIによる武器検知システム」です。

そんな中、2024年にシリコンバレーで設立されたスタートアップ「Cover AI」が大きな注目を集めています。彼らが開発するのは、遠隔からバッグや衣服越しに銃器を検出できる、非接触・リアルタイムの武器検知AI。今回は、そのビジネスモデルを深掘りし、類似する注目スタートアップとの比較も交えながら解説していきます。

Cover AIとは何者か？

Cover AIは、NASAのジェット推進研究所（JPL）で開発されたテラヘルツレーダー技術を応用し、遠隔から銃器や爆発物を検出するシステムを開発しています。検出には310〜350GHzの高周波（Wi-Fi程度の安全レベル）を使用し、バッグやコートの中に隠された銃器をリアルタイムで識別することが可能です。

同社は2024年の設立後、シードラウンドで1,000万ドル（約15億円）を調達。この金額の一部は、SpaceX共同創業者でもあるBrett Adcock氏の出資によるものです。

特筆すべきは、設立わずか1年足らずで複数のK-12学校（幼稚園から高校）への導入が進みつつある点。技術力と実装力の両面で、他社とは一線を画しています。

ビジネスモデルの中核：AI×センサーデバイス＋サブスクリプション

1. ハードウェア＋AIのパッケージ販売

Cover AIは、独自開発のセンサーデバイスとAIソフトウェアを一体化した形で提供します。センサーはテラヘルツ波による非接触スキャンを行い、AIは銃器や不審物の形状や材質パターンを学習済み。学校や施設はこの機器をエントランスなどに設置することで、監視体制を自動化できます。

2. サブスクリプションモデル

機器の販売だけでなく、月額または年額のサブスクリプションを通じて、以下のサービスを継続的に提供しています。

• 検出精度のアップデート（クラウドベースのAI学習）
• 遠隔保守・メンテナンス
• 通報システムとの連携

このモデルにより、企業としての収益を安定化させ、スケールアップが可能となります。

3. 公共予算をターゲットとした営業戦略

学校や病院といった公共機関には、連邦や州レベルでの助成金が多数存在します。Cover AIは、銃撃事件の防止という公共性の高いミッションを前面に出し、教育委員会や政府との連携を進めています。

技術的な強みと社会的インパクト

• NASA技術ベースのテラヘルツレーダー
  従来の金属探知機は、非金属の銃やプラスチック製のナイフなどを検知できませんでした。しかし、Cover AIのシステムは「形状」と「密度」に基づいて武器を判別するため、従来技術の弱点を補完できます。
• 誤検知率の低さとリアルタイム性
  AIによる形状解析は、従来の画像認識よりも高精度で、かつ“即時判定”が可能です。これは、実際の事件発生前に対処可能な時間を生み出す重要な要素となります。

類似ビジネスモデルとの比較：Cover AIは何が違う？

1. ZeroEyes（アメリカ）

監視カメラ映像にAIを搭載し、銃器らしき物体を検出
人間による監視センターで確認した後、通報される仕組み
月額サブスク型モデルで、多くの学校・病院に導入済み

Cover AIとの違い：ZeroEyesは既存の監視カメラ映像を使うソフトウェアベース。一方Cover AIは、自社開発のセンサーを用いることで“映像の死角”も検出可能。

▶ 参考：ZeroEyes公式サイト

2. Athena Security

赤外線カメラとLIDAR技術を組み合わせ、武器や危険行動を検出
空港やスタジアムなどへの導入実績がある
サーマルスキャナを併用し、感染症対策にも活用された

Cover AIとの違い：Athenaは視覚系に強みがあり、群衆や行動異常の検知も対応。Cover AIはより「銃器」に特化しており、テラヘルツという非視覚技術を武器にしている点がユニーク。

▶ 参考：Athena Security on Wikipedia

3. Evolv Technology

磁気・電波センサーを用いて、ゲート通過型の非接触検査を提供
ディズニーランドやプロスポーツ施設でも採用
米国証券取引所に上場済み

Cover AIとの違い：Evolvは大規模施設向けに最適化されており、設備が大きく高価。Cover AIは「学校・中規模施設向け」の軽量化されたモデルを志向。

▶ 参考：Evolv公式サイト

おわりに：AIが「命を守る」領域へ進化する時代

Cover AIは、単なるスタートアップではありません。それは、AIという先端技術を用いて、私たちの“当たり前の日常”を守ろうとする挑戦です。

子どもたちが安心して通学できる未来を、技術で支える。防ぐことが難しい“突発的な暴力”に対して、あらかじめ備えることのできる社会へ。

Cover AIのビジネスモデルは、まさに「テクノロジーによる公共安全の再定義」であり、その可能性はこれからの10年をかけて、世界のスタンダードとなるかもしれません。

参考・引用元

• Cover AI 公式サイト
• Pragmatic Coders: Top 10 Startups to Watch in 2024
• ZeroEyes
• Athena Security Wikipedia
• Evolv Technology